「アンダーカヴァー」ジェームズ・グレイ

土曜日は、いつもお世話になっているカメラマン夫婦が自宅にやってくる。もうだいぶ前になるけれどお二人の結婚を祝って。今年は購入したばかりの自動車を廃車にしてしまったり、緊急入院したり、希望退職してみたりといろいろあったけれど、こうして友人と年末を過ごせただけで、もう、来年も頑張れる気がしてくる。
不況、不況というけれど、いま退職をしたら、転職先を見つけるのが大変、というけれど、不景気の時にびくびくしたり、騒いだりする人って、逆に好景気、バブル期が訪れると、それはそれできちんと浮かれてしまう人なのではないか。
いつものハイペースでワインを呑んでいたら、危険信号となる世界が二重に見える時間が訪れたので、ひたすらお水を飲み、復活の兆しが見えたところで、夫婦はお帰りになる。三鷹の辺境までわざわざ足を運んでくださってありがとうございます。末長く、お幸せに。
翌日の日曜日は、ジムでマシンのみ。およそ一ヵ月半ぶりに体重や骨格筋量の測定をする。ジムに通い始めたころにくらべると、骨格筋量はかなり増え、基礎代謝もよくなってきている。次の目標は体脂肪率を10%以下にすることと決める。
ジムから吉祥寺バウスシアターへ。「アンダーカヴァー」(ジェームズ・グレイ)。マーク・ウォールバーグホアキン・フェニックスということで、それぞれ「ハプニング」と「サイン」、「ヴィレッジ」といういずれもシャマランの作品を思い出しながら見てしまう。ただただひたすら暗い映画だったけれど、どしゃぶりの雨の中のカーチェイスシーンは、主人公たち、警察官一家に決して救いはないのだなあ、というのを確信させるほど、この映画の暗さを際立てていた。
ホアキン・フェニックス演じる弟も警察官になり、ロシアのマフィアを追い詰めるシーン。川の近くにある背の高さほどある草が生い茂る場所での銃撃シーンで、ホアキン・フェニックスが草叢の中をお互い相手を確認できずに、手探りで撃ち合うところは、「サイン」の麦畑の続きとして見えた。
月曜日。いちはやく妻と娘を実家に帰し、朝からシネマ・ヴェーラへ。ロマンポルノ特集ということで、「ラブレター」(東陽一)と「スケバンマフィア 恥辱」(斎藤信幸)の2本立て。「ラブレター」は田中陽造の脚本ということで、以前、脚本のみを読んだ記憶がある。フィルムが古いのか、マゼンタというか赤というか、全編を通して赤みがかった色のまま見続けることになる。主演の関根恵子がとにかく最高に可愛くて、へんてこりんなダンスを踊るシーンもドキドキし続ける。彼女が不倫相手の中村嘉葎雄に彼の長期不在を咎めるとき、彼女のことを「うさぎ」と呼ぶこの映画で、「あんまりさびしいのでうさぎの目は赤くなるんだよ」といったセリフをいう。そうか、この映画のフィルムが赤いのはうさぎの目を通して見た世界だから、赤いのか、とどうしようもない妄想に入る。仲谷昇加賀まりこも最高にかっこよかった。
2本目の「スケバンマフィア 恥辱」は「ラブレター」が原宿周辺を舞台にしていたと思ったら、こちらは横浜。横浜駅西口から、山下公園三ッ沢周辺、石川町駅の坂を上った山手周辺など、今もあまり変わらない風景がいたるところに。「スケバンマフィア」という荒唐無稽の集団が登場してきて、主人公である女の子を横浜にも当時あったのであろう造成前の空き地で追い込んでいくシーンはもはやコメディで、「ラブレター」を見ていながらも感じたけれど、「もうすぐ相米慎二だ」というこちらも荒唐無稽の感想を抱く。主人公の女の子を助け、助けられることになる青年が、スケバンマフィアの中で、「ゴッドマザー」と呼ばれるボスをカーチェイスの末、追い詰め、水道管が破裂したため水しぶきが激しくあがるなか、彼女を叩きのめすのかと思いきや、水浸しの路上で強姦を始めるシーンも素晴らしく、映画にはかならず強姦シーンを入れなきゃいけないのではないかとも思い始めてきた。
シネマヴェーラをあとに、イメージ・フォーラムまで走る。「エグザイル/絆」(ジョニー・トー)。返還直前のマカオを舞台に、幼馴染4人組がマフィアからの逃走と闘争を続ける。この映画でも、観音山とかいう山に金塊を運ぶ警備隊を主人公たちが襲うシーンで、草叢のなかで、銃撃戦を行う。どうもお互いを十分に視認、確認できない状況を作り出し、撮影するというのは次にどんなシーンが訪れるのかを不確定なまま、画面を追い続ける観客が映画を見るという行為とパラレルで、映画を見ることは、画面との銃撃戦、こちらからも視線をあちらこちらにやって攻撃しなければならな行為なのではないかという気が、「アンダーカヴァー」の同様のシーンも思い出しながらしてきた。