「トウキョウソナタ」黒沢清

有明でいたって普通の中華料理屋に入り、日替わり定食(麻婆豆腐)を食しながら、かなり大きなサイズの窓から確認される木々が風にそよいでいる様と、通りを歩く人たちの少し急ぎ足になっている感じから、その風が秋風なのだなあとなんとなく感じ入った木曜日。
結局ジムには一回しか行けなかった後悔から、今日こそは鍛えるぞと意気込んでみたものの、午後に予定している成田市印旛沼での取材があることを想像すると、やっぱりジムには行けそうになくて、そして本当に行けなくて、京成成田駅のホームで黒ラベルをがぶがぶ呑んでしまった金曜日。
土曜日。朝早く起きて、保育園の運動会。正式名称は「なかよし広場」。ここ2カ月くらい、繰り返されてきた予行演習と歌の練習の成果がみれるはずだったけれど、肝心の娘の機嫌が最悪。開会宣言ののちに園児全員で歌う「こどもたちのオリンピック」も娘は無視して泣きはじめる。かけっこの時間も泣きじゃくり、父親参加型の競技のあいだも泣きっぱなし。妻が委員として参画している父母会主催の協議は段ボールを利用した少し面倒くさいリレー。なぜかわたくしの子供がアンカーにさせられ勝利は絶望的かと思われたその時、彼女は父と母が目の前に敷く段ボールに向かって猪突猛進。ハイハイで。1位で受け継いだ順位をそのままに、いや、2位以下を大きく引き離して1位でゴール。これまでの不機嫌さを少しずつ取り戻しながらトロフィーを受け取るのだか受け取らないのだか曖昧な態度で、周りのお父さん、お母さん、そして園児のみんなの苦笑をさそいつつ、フィナーレまでもうすこしの「なかよし広場」。最終競技のときには、すでにこころここにあらずの彼女は、保育園に隣接している学童保育に通うこともたちと一緒に砂場遊びをし始めるしまつ。団体行動は苦手でいいけど、少しくらい他人のことを見つめてみてもいいじゃないかな。夕方から若い友人が家に遊びにきて、長期間ほたらかしてあった「佐友」というシェリー樽の匂いがする福岡の麦焼酎をカプカプ呑んでいたら、いつの間にか眠っていた。
午前中の買い出しはせいいっぱい頑張って、今日こそはと意気込んでジムでトレーニングの午後。汗を流した後はジムに併設されている半温泉に簡単に浸かり、いざ、恵比寿へ。
「TOKYO SONATA」。ガーデンシネマに早めに到着すると満席には届かないがひとがたくさん。
「風花」で北の大地を小さなピンクの車で浅野忠信とあてもなく走り抜けた小泉今日子が、この映画では小さくて青い車に乗って、役所広司といっしょに海に向かって疾走している。「母親役を演じるってことも悪いことばかりでもないのよ」といったようなセリフを小泉今日子が息子に対して発するとき、家族それぞれが生をやり直そうとしている局面において、何か決定的にこの映画全部と映画の外側に突き抜けて響いてきて、もはやフィクションと現実のどちらにも完璧に対応しきれる女性として、彼女の存在そのものが起立していると感じました。この映画についてはもう少しゆっくり時間をかけて向き合おうと思います。