マネキン

百貨店のセール最終日ということでやたらと人が多い渋谷で所用を済ませてから「アイ アム レジェンド」(フランシス・ローレンス)と深作欣二を2本「現代やくざ 人斬り与太」と「暴走パニック 大激突」を見る。
「暴走パニック 大激突」にはびっくり。
深作欣二といえば、「仁義の墓場」の強烈な印象が強かったが、「大激突」は全くことなる映画だった。主人公の渡瀬恒彦が銀行強盗を繰り返しながら、女性とブラジルへ逃げるまでの話といってしまえばそれまでだが、始めの銀行強盗シーンから、リオ・デジャネイロへの逃亡が成功したというナレーションを聞かされるラストまで、ありとあらゆる登場人物たちの欲望の成就をなしくずしにしながら、映画は猛スピードで進んでいく。
スケベイな警察官、川谷拓三は、セクシー女警官との逢い引きにいつものように向かうが、後輩警官に寝取られていたり。金持ちのゲイが所有する赤い車を愛してしまった青年は、ゲイの金持ちに拉致されたかと思うと、逆に金持ちを殺し逃げる。キャバレーで女に恋した酔っ払いのおっさんは、渡瀬恒彦が働くバーで女に逃げられ、スチールに写ったいやらしい女の写真だけを生き甲斐に生きていたり、「MHK」を名乗る放送局の中継車は、現代風俗としての暴走族に取材したいのだが、渡瀬たちのカーチェイスに巻き込まれたり。
みなそれぞれの欲望を中途で切断され、それぞれが最後のカーアクションの場面で車に乗りながら出会う。すべての欲望を横滑りさせながら、すべての人物を車に乗せて、ぶつけ合い、火災を起し、水をかけ、混乱のさなかに渡瀬たちだけが、ボートでブラジルに向かいました、という結果報告でお終い。
うーん、深作欣二の欲望は、冒頭の小林稔侍が車に轢かれて血だらけになるところや、最後のカーチェイスで通りすがりのトラックのおっさんが血まみれになるところぐらいには発揮されていたように思うが、ほとんどのシーンがこれまでの深作欣二のイメージとは異なる映画だった。
脚本に田中陽造が参加しているからか。完全に田中陽造の映画になっている気がした。