「マイ・ブラザー」ジム・シェリダン


疎開生活が終ると決まった途端に腑抜けた存在になる。働く働かないでどぎまぎする社会は一日も早く破壊しなければ。
腑抜けから逃避するため武蔵野館に。海兵隊員と家族の物語。アフガニスタンへの出兵と刑務所から弟が出所するところから始まる。アフガニスタンで死亡したことが一度は家族に告げられたものの、生還することになる。家族との生活が耐え難く感じられる生還後の主人公は、娘の誕生日パーティーで感情のコントロールを失う。風船を爪でひっかく音を出し続ける娘に対して怒鳴り声をあげる。警察に逮捕されることになる拳銃の発砲音よりもこの風船を爪でひっかく雑音がこの映画全編を貫いている音と感じる。罵り合い、励まし合うためにコトバが飛び交う家族の空間は風船をひっかく音で全てがその場しのぎの慰めに過ぎないものになる。一度戦争に関わると後戻り不能の「その後」の世界を耐えるだけの時間が待っている。帰還兵の生は日常生活を満たす家族の声が遠のき、再び発せられるかもしれないゴム風船を爪でひっかく音が鳴ることに怯えながらも、ゴムから発せられる雑音が鳴り続ける環境こそが戦争から生還した生の場所だということをどこかで感じつつ徒にやり過ごすほか生きる術がない。